SS Vol6 シチュエーション 「姉が突然やってきたら」 朝早く出社するのは、まあ、なんというか習慣のようなもので、変えようと思ってもなかなか変わる者ではない。 というか、ただ単に早起きタイプなだけなのだ。 という訳で、別に会社があるわけではない今日も、いつもの時間に起きてしまった。 朝5時半過ぎ、いつものように起きて、顔をバシャバシャ、と洗いリビングに入ると、頭の片隅に奇妙な感覚を覚えた。 「・・・」 いや、奇妙な感覚というより、奇妙な"もの"があった。 そして、そのソファーの上にのっかった毛布をかぶった奇妙なものは、カーテンを開けると、うぅん、と眩しそうに寝返りを打った。 「・・・」 「ん〜、もぅ〜、眩しぃ〜・・・」 「・・・」 なぜかいる、従姉妹(年上)のかなみ姉。 あれ?あれ?鍵閉めてたよな?なんでいるの? ま、まあ、かなみ姉のことは気にしない気にしない。 どうせ、近くに来たついでよ!とか言うんだろうし。 そう適当に言い訳をつけて、天気も良いし、かなみ姉の事はほおって置いて、河川敷まで散歩に行くことにした。 軽くジョギングをしてから、家に戻ってくると、かなみ姉が起きていた。 かなみ姉は、エプロン姿で歌を口ずさみながらキッチンに立って、なにやら作っている。 思わず、いや、無意識のうちに、そのかなみ姉の背中を見つめてしまっていた。 こっちに引っ越してきて2年半。 その間ずっと一人暮らしをしていた事もあって、家に帰ってきたときに誰かいる、という感覚にすこし懐かしさを覚えた。 それがかなみ姉であるということは、なにか妙な感じがするけれど。 そんな事を考えて突っ立っていると、かなみ姉はこちらを振り返り、 「おはよ!タカシ」 と、昔と変わらない笑顔を浮かべそう言った。 なぜか知らないけれど、胸がどきっ、となった。 「お、おはよう」 「なんか、元気ないんじゃないの?」 動揺を隠すように答えたものの、逆にそれが気を惹いてしまったようだ。 「いや、ちょっと急にかなみ姉がきたから、その・・・・・・驚いてる」 「そう?私も急だとは思ったんだけどね、近くに来たついでだし、よってみたの」 かなみ姉は、想像したとおりの返事を返してよこした。 思わず、笑いそうになってしまった。 ついでに来た人が、エプロンなんか持ってくるのだろうか。 どうやら、かなみ姉のすこし強がりなところも変わっていないらしい。 「鍵はどうしたの?」 にやけそうになるのを堪えて、聞いてみた。 「おばさんから借りた」 そう言ってポケットから鍵を出してみせる。 おそらく、何かあったときのためだ、と引っ越してきた時に親に送った予備キーだろう。 「・・・・・・」 なんとなく、昔と変わらないかなみ姉に、懐かしさを覚えて、ものすごく穏やかな気持ちになる。 「何よ?黙っちゃって」 「んにゃ、かなみ姉はかなみ姉だなぁ、と」 「そういうアンタだって、昔から変わってないわよ」 END (いつもは少し違う日常END)