SS Vol4 シチュエーション 「ツンデレに、お前ってズレてるよなって言ったら」 暑い。とりあえず暑い。なんでこんなに暑いんだと思うぐらい暑い。 じー、じー、じー、と窓の外からセミの鳴き声が聞こえてくる。 時折、風がちりんと風鈴を鳴らすけれど、正直、あまり涼しくはない。 じーじーじー・・・じーじーじー・・・ 「・・・」 あまりの暑さにアイスが食べたくなった。 自転車にまたがり数分、近所の駄菓子屋に足を運び60円のアイスを3つ買った。 買ったうちの一つ食べながら、帰り道、近くの川を通りかかると、川にもぐり銛を持って魚を取っている見慣れた後姿があった。 思わず、自転車を止める。 黒く長い髪が水面に浮き上がってくる。かなみ・・・だ。 自転車にスタンドをかけて、川に下りるとかなみがこちらに気がついて手を振ってきた。 「あー、タカシー!」 取ったばかりの魚をバケツに入れて、川岸に上がってくる。 「ほら、結構取れたんだよ!すごいでしょ!?」 かなみはそう言うと、バケツの中を見せてみせた。 20cm近い魚が10匹以上はいるだろうか。 「一杯取れたなー!こんなに食えるのか?」 「ご近所さんに配ったりしたりね。結構食べるわよ。あ、でもタカシにはあげないから」 かなみは笑いながらそう言うと、近くの大きな石に腰を下ろした。水に濡れた黒い髪が、つややかに光る。 「ナニソレ?俺も近所だろ?」 「あ?何買ってきたの?アイス?アイス?」 「って、スルーかよ!・・・まあ、ちょっと食べたくなってな」 「一個貰うよ」 かなみは俺の手から白いビニール袋を奪い中からアイスを取り出すと、封を切って食べ始めた。 返事をする前から封を切ってる時点で、確認を取る意味が全く無い。 「ひゃー、おいしい」 かなみは、首をすくめ目をつぶり言った。 「そうかい、そうかい」 俺も、ほおって置くと溶けてしまうので、残った一つを頂く。 本当は、冷蔵庫にでも入れて後で食べる予定だったんだけど・・・まあいいか。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 川のせせらぎの音が耳に届き、水面に太陽の光がきらきらと反射する。 木々や草木は深い緑色にそまり、風を受けて時折緩やかに揺れ、 セミが夏を示すように鳴き、透き通るかのような青が空を覆う。 夏だな、と思った。 「かなみって、ちょっとズレてるよな」 アイスが枝だけになった後、俺はかなみにそう言ってみた。 「どこら辺がよ?」 ちょっときつめの視線が帰ってくるが気にしない。 「魚を銛で取るし、山行って栗とかキノコとか、山菜とか取ってくるし、髪も染めないし、街にもあまり出ないし」 クラスの女子とかは、街に行って映画見てきたー、とか新しいファッションの話とかでもちきりだったりするのだけれど、かなみに関してはあまり聞いた事がない。 すると、かなみは 「いいじゃない、別に。私はこの自然が大好きなんだから」 と答えた。 そして笑顔をみせてこちらを向くと、付け足すように、 「タカシは大嫌いだけどね」 と言った。