SS Vol2 シュチュエーション 「後輩 二人乗り えっちな本」 「プリントの閉じ方でも頼むな」 そう言ってきたのは、現生徒会執行部顧問の田中先生だった。 「執行部で使うから。印刷室に閉じる分のプリントがもう置いてあるからよ」 「あ、ちょ・・・」 「じゃあなー、俺、職員会議あるからなー」 こっちに言い訳を許す間も与えず、田中先生は一方的に言うとにやにやと笑い、書類をひらひらと振りながら職員室から出て行った。 「・・・」 なんてこった、こうなるんだったら、提出期限ぎりぎりにレポートを出すんじゃなかった。 もうちょっと早く提出していたら、田中ティーチャーに目を付けられる事もなかっただろうに。 「あ"−・・・」 "元"生徒会執行部にたかるな、コラ。 印刷室に行くと、意外でもなんでもないが"現"生徒会長の碓氷ちなみがいた。 「お、碓氷じゃないか」 「あ・・・タカシ先輩」 ずらりと並ばれ、積まれたプリントの前に立ち、すっすっ、と一枚ずつプリントを取りつつ、碓氷はそう答えた。 てっきり、一人きりで大量のプリント閉じをやらされると思っていたのだが、どうやら田中先生もそこまでは鬼ではなかったらしい。 それにしても、俺があのタイミングで職員室に顔を出さなかったら、これを全部碓氷に閉じさせるつもりだったのか? やっぱり鬼か。 「何か用ですか?用が無いなら帰っていただきたいのですけど」 「ま、それがあるんだな。田中先生にプリント閉じしてこい、って言われてな、んで来たわけ」 碓氷はちらりとこちらを見た。 あまり表情を表に出さないタイプだが、何かを言いたそうな顔をしているのがわかる。 「別に、タカシ先輩に頼らなくても、私で処理できる量ですよ」 パチン、とホチキスでプリントを留めつつ、碓氷は言った。 一人で処理できる量だとは思えないのだが。 「・・・そうかい、そういかい。でもな、田中先生に仕事を任されたてまえ、やらないわけにはいかないんだよ」 「・・・」 「それに、碓氷の顔も見たいしな」 にこっ、と笑顔を浮かべる。 「うぅ、気持ち悪いです」 いつものことだが、ちょっとショック。 「まあまあ、そう言わず」 という訳で、6時を回って少し経った頃、なんとか全てのプリントを閉じ終わりった。 1時間半ぐらい閉じ続けたことになる。 「・・・やっと終わったな」 備え付けのパイプ椅子にどかっ、と腰を下ろす。 「このぐらいで疲れるなんてだらしない先輩ですね」 「まあ、それを言うな」 目の前には、ついに全部閉じられたプリント。 よく2人でここまで閉じたものだ。 ぐだー、と体の力を抜くと、緊張感が一気にほぐれて、腹がぐぅ、と鳴った。 「・・・」 「・・・」 碓氷がこちらをみて、はぁ、と呆れたようにため息をついた。 「そうだ、碓氷、駅前になにか食べに行かない?せっかく大仕事も終えたんだし」 「・・・む・・・セクハラで訴えますよ」 「どこが!?」 「そのまま、ホテルに連れ込むつもりですね」 「しねーよ!」 怒鳴った。どんな発想だよ。 「・・・なんだっての、せっかく誘ってるのにさ」 「む、・・・タカシ先輩が連れて行ってくれるなら、考えないことも無いですけど」 「お、そうか。じゃあ、決まりな」 一足先に外に出て、駐輪場から自転車を回し、校門前で待ってると、小走り気味に碓氷がやってきた。 「じゃあ、行こうぜ」 「・・・カバンお願いしますね」 碓氷はそれだけ言って通学鞄を俺に手渡すと、いつものようにリアキャリアに横向きで座った。 碓氷の右腕が、俺のお腹にそっと回される。 「じゃあ、行くぞー」 そう言って、碓氷が座ったのを確認し、少し強めにペダルを踏んで漕ぎ出した。 秋めいてきた少し肌寒い風を切りつつ、学校からのゆるやかな下りをいつもより丁寧に降りていく。 道脇の水田では、稲穂が重そうに頭をもたげていた。 「なんだかんだ言って、碓氷って後に乗せてくれって言うよな」 「風が気持ち良いからです」 すこし間を空けて、碓氷はそう答えた。 「じゃあ、一人で乗れば良いんじゃない?」 「それは・・・疲れますから」 まあ、学校までが登りだからな。 「それだけ?」 「・・・それだけです」 碓氷は風に消えるほどの小さな声でそっけなく答えたが、ちょっとだけ回された腕に力が入った気がした。 マックで軽く食べて、本屋に寄り、駅前を通りかかると、私服姿のクラスメイトA 山田と遭遇した。 「お!タカシに碓氷ちゃん。デートですかい?」 「まあな。・・・っていでぇ!!」 背中に激痛が走り、何かと思い後を振り返ると、碓氷が不機嫌そうな顔で立っていた。 「山田さん、デートなんかではないです。私はタカシ先輩に頼まれて、嫌々帰り道に付き合っているだけですので」 嫌々、のところを強調し、いつも以上にツンツンな碓氷。 もうちょっと、なんとかならんか。 「?そうかい」 「そ、それよりどうしたんだ?私服姿で?」 さっきまでつねられていたところを摩りつつ、話題をなんとかそらす。 「おお、気になるかい?これはだな」 そう言うと山田は、ごそごそと鞄の中を漁り、白い紙袋に入れられた本を取り出す。 「隣町までわざわざ行って、買ってきたのだ!」 にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、山田は本を高々くかざした。 その笑みから、山田が何を買ってきたのかが分ってしまう。 そうだ、俺と山田が休み時間中に女子の目につかぬように話をしていた、裏えっちな本!! デンジャーデンジャーな中身で、文字に起こす事もできないというあれだ! 「これが例の・・・ふっふっふ、おぬしも悪よのぅ」 「いえいえ、お代官様ほどでは・・・がっはっは」 そんな事をしていると、背中から変な視線を感じ始めたので、山田と俺は何事もなかったかのように笑いを止め、 「んじゃあ、また明日なー」 「了解ー」 と言って別れる。 「さてと、じゃあ、帰るか。送ってってやるよ・・・っておいどうした?」 振り返ると碓氷が、むすっ、とした顔をしていた。 「どうした?」 「やっぱりタカシ先輩は変態です。えっちな本を読むなど・・・」 んなことは一言も言っていないはずですが。 どこで気がついた!? 「不健全です!生徒会長権限で、ていてい (停学) にします!」 「いや、ちょっとまて、本のの中身の事なんて何一つ言ってないぞ!というか、そしたら出席日数足りなくて卒業できなくなるわ!」 「ふん!」 ぷい、と顔をそらして、先に歩いていってしまう。 慌てて自転車を引っ張りつつ、追いかける。 「おい、待てっての。機嫌直せよー」 「・・・」 「碓氷ー」 「・・・」 「碓氷ってばー」 駅前から、無言のまま碓氷の後を自転車を引っ張り歩き続け、気がつくと碓氷の家の前まで来ていた。 いろいろ話しかけてみたのだが、全く反応は無く、何か一言二言答えてくれと切に思った。 「んじゃな」 自転車にまたがって、来た道をを引き返そうとしたとき、やっと碓氷が声を出した。 「今週の日曜日・・・」 「ん?」 「・・・・・・今週の日曜日、買い物に付き合ってくれたら許してあげます」 「日曜日は空いてるけど、・・・それってデートのお誘い?」 「違います!デートなんかじゃないです、タカシ先輩は単なる荷物もちです!映画とかなんかに連れてってほしくないんですから!」 素直じゃないねぇ、この娘。 「・・・荷物持ちね・・・まあいいか。じゃあ、いろんなとこ回ろうな」 「・・・時間に遅れたらただじゃおきませんからね」 END