SS Vol.10
「スイッチを切れないツンデレ」


かなみが突然遊びに来た。
「相変わらず汚いわね。だから彼女できないのよ!」
「うるせい!お前の部屋がきれい過ぎなんだよ。俺は普通だ」
そんなにきれいにして、半導体でも作ってんのか!、と突っ込みたい。
「お茶でも持ってくるから、部屋のものいじるなよ」
「はーい」
分かってるのか分かってないのか・・・

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久しぶりのタカシの部屋。何年ぶりだろ?
ベット脇においてある、変なぬいぐるみ・・・これって・・・小学校の時にタカシに送ったやつだよね。
まだ持っててくれたんだ。ちょっと嬉しいかも。
確か、メッセージが吹き込めるんだよね。なんて入れてたのかな。
興味本位で、ぽちっと、ぬいぐるみのお腹を押す。
『タカシ!ダイスキだよ!』
「ひぇっ!?」
大音量で言われ、思わずひっくり返りそうになった。
『タカシ!ダイスキだよ!・・・タカシ!ダイスキだよ!・・タカシ!ダイスキだよ!・・タカシ!ダイスキだよ!』
「なななななな、何言ってんの!?」
もう一度お腹を押すものの、とまらない。
『・・・タカシ!ダイスキだよ!・・・タカシ!ダイスキだよ!・・・タカシ!ダイスキだよ!』
「ス、スイッチは!?ってもう切れてる!!」
ぬいぐるみをゆさゆさゆするが、とまる気配はない。
ゴン!
『お嫁さんにしてね?・・・お嫁さんにしてね?・・・お嫁さんにしてね?・・・』
頭を叩くとメッセージが変わった。
「やっ!?ちょ!そ、そんな事言った記憶ないわよ!!誰があんな唐変木の!」
とは言いつつも、確かに言ったのを思い出した。
だんだんと顔が熱くなってくる。
おそらく、鏡を見たら真っ赤だ。
『・・・お嫁さんにしてね?・・・お嫁さんにしてね?・・・お嫁さんにしてね?』
「やっ、やめてー!!」

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「か、かなみっ!?」
悲鳴にあわてて部屋へ戻ると、かなみがぬいぐるみAと格闘していた。
『・・・お嫁さんにしてね?・・・タカシ!ダイスキだよ!・・・お嫁さんにしてね?・・・お嫁さんにしてね?』
ぬいぐるみAが目覚まし時計バリの大音量で恥ずかしいセリフを言っている。
「たっ、タカシ!?と、止めてよ!」
顔を真っ赤にしたなみがこっちを見ていた。
あー。あー。だから言ったのに。
『タカシ!ダイスキだよ!・・・タカシ!ダイスキだよ!』
「電池抜けばいいじゃん」
「あ」
『・・・お嫁さんにしてね?・・・お嫁さ・・・・・・・・・・』
かなみの腕の中のぬいぐるみAがおとなしくなる。
やかましかった部屋が、急に静かになった。
かなみからもらったぬいぐるみを、今まで大切に持っていたのがどうしようもなく恥ずかしくて、かなみから視線をそらす。
「・・・ちょっと、壊れててさ」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あ、あのね、あの」
「ん?」


「あの・・・今でも好きだよ?」




END

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あとがき
久しぶりの短編です。
たまにはこんな、べたべたであまあまな短編もいいかと思いますよ。ええ。


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